『アルゴリズム女子高生と昭和の刑事・外伝―逃げるトクリュウ、追う昭和―』

1. 渋谷署・朝八時
「……なんで俺の相棒が女子高生なんだ」
大友刑事(58)は、デスクで新聞を広げたまま固まっていた。
「教育委員会と警察庁の実証実験です」
女子高生・真琴(17)は、USBを署内PCにブッ刺す。
「何の実証だ」
「“昭和脳はどこまでAIに耐えられるか”」
「失礼すぎるだろ」
「で? その“トクリュウ”ってのは、要するに何だ」
大友刑事(58)は、紙コップのコーヒーをすすりながら聞いた。
向かいでノートPCを開く真琴は、すでに三画面体制だ。
「要するに、“誰が誰だかわからない犯罪サークル”です」
「サークル?」
「昭和で言うと“連合”ですね」
「不良か」
「もっとタチ悪いです」
ホワイトボードには、意味不明な矢印と匿名アカウント名。
「指示役、実行役、回収役、全員ハンドルネームで、一週間でメンバー入れ替え」
「じゃあ誰を捕まえりゃいいんだ」
「今動いてる人です」
「哲学か?」
「データです」
2.渋谷センター街・昼
二人は街に出ていた。大友は革ジャン、真琴は制服+パーカー。どう見ても補導される組み合わせだ。
「なあ嬢ちゃん、尾行ってのはな、もっとこう……自然に」
「刑事さん、その歩き方、昭和の刑事AIが生成したサンプルみたいです」
「褒めてんのか?」
「再現度が高いって意味では」
真琴がスマホを見る。
「来ますよ」
「誰が」
「トクリュウの“今日の実行役”」
「顔は?」
「知らないです」
「じゃあどうやって?」
「行動パターンです」
交差点。信号待ちの男がスマホを見ている。
「……あれか?」
「候補Aです」
「根拠は?」
「・歩幅・スマホの角度・無意味にコンビニ前を往復する癖」
「それだけ?」
「あと、今この瞬間に広告を二回スキップした人」
「そんなの分かるのか」
「分かります」
3.ネットカフェ前・張り込み、男はネットカフェに入った。
大友は自販機の横で張り込み。
「昔はな、灰皿の吸い殻で犯人を割り出したもんだ」
「今はログです」
「ロマンがねぇな」
「ロマンで逮捕できません」
突然、真琴のPCが警告音。
「来ました。指示役からのチャット」
「読めるのか?」
「匿名でも、文体にクセがある」
画面には短文。
《今日、予定通り》
《場所は変えない》
大友は眉をひそめた。
「……妙に短いな」
「ですよね。昭和より短文」
「それは褒めてない」
4.港区・夜
二人は指定された場所へ。
倉庫街。街灯は少なく、風が冷たい。
「嬢ちゃん、こういう場所はな、勘が――」
「刑事さん」
「ん?」
「心拍数、上がってます」
「……寒いだけだ」
倉庫の影から、さっきの男が出てくる。別の男に、何かを渡そうとした瞬間。
「今です」
「おう!」
大友が飛び出す。
「警察だ!」
男たちは散る。
「走るな走るな!」
「刑事さん、右!」
「分かってる!」
5.追跡・路地裏
真琴は走りながらスマホを見る。
「前方、左に曲がります」
「なんで分かる!」
「逃げるときは明るい方を避ける」
「人間の心理か?」
「データ化された心理です!」
路地の先で、男が転ぶ。大友が覆いかぶさる。
「観念しろ!」
男は荒い息で言う。
「……証拠は?」
真琴が追いつく。
「ありますよ」
「何だよ」
「あなた、
逃げながらもスマホを落とさなかった」
「それが?」
「それは――、指示役との接続を切れなかった証拠です」
男は黙った。
6.夜明け前・署屋上
逮捕後。
屋上で缶コーヒー。
「嬢ちゃん」
「はい」
「AIってのは、
全部分かっちまうもんなのか」
「全部じゃないです」
「何が分からん」
真琴は少し考えて言った。
「人が、いつ弱くなるか」
大友は空を見上げた。
「それはな……俺も、たまに外す」
「でも今日は当たりました」
「勘がな」
「データがな」
二人は少し笑った。遠くで朝焼け。
「刑事さん」
「ん?」
「また一緒にやります?」
大友は帽子を直す。
「定年までな」
「それ、あと何年?」
「聞くな」
昭和の勘 × AIの眼
トクリュウは、今日も一つ、解体された