THE LIFEFUMIO TAKASHIMA
SHORT STORY2025.9.2

IPS細胞の子

1. 生まれた理由

アリアが初めて自分が“設計された子”だと知ったのは、十二歳の誕生日だった。
両親は彼女の才能を褒め称え、未来を誇らしげに語った。
「君はね、パパとママが夢見た最高のギフトなんだよ。音楽の才能と、語学のセンス、それから…心臓病のリスクを限りなくゼロにした」

アリアはただ笑顔で頷いた。けれど心の奥底では、冷たい針が胸の奥に沈むのを感じた。
――じゃあ私は、私じゃない。私は、作られた夢の器にすぎないの?


2. 境界線

学校には、アリアと同じ「IPS世代」が増えていた。
彼らは誰もが美しく、賢く、速く、そして健康だった。
けれど、自然出生の子どもたちの視線は冷たい。
「人工ベビー」「ラボの子」と呼ばれるたび、アリアは笑って受け流した。
でも夜、ひとりで鏡を見るたびに思う。
この顔も、この声も、この指も――すべて“選ばれたパーツ”なのだと。


3. 永遠の時間

十七歳の夏、祖母が静かに息を引き取った。
その時、父は言った。
「アリア、君には死はない。僕らの世代はまだ老いるけど、君たちは違う」
寿命のない人生。
その響きは甘美で、そして恐ろしかった。
アリアは思った。
永遠に生きるということは、永遠に“誰かの期待”と共に生きるということなのではないか。


4. 逃走

十九歳になった春、アリアは都市を離れた。
人工子宮で生まれた彼女の存在を「奇跡」と呼ぶ世界から逃げるように、
海沿いの小さな町で、名前を偽り、普通の人間として暮らした。
朝、パン屋で働き、夜は安いアパートの窓辺でギターを弾く。
その音は決して完璧ではなかったけれど、そこには初めて、自分だけの不器用なリズムがあった。


5. 再会

秋、偶然訪れた旅人が、アリアを見つけた。
彼もまた、IPS細胞で創られた「デザイン世代」の一人だった。
「君も、ここまで来たんだね」
彼は笑いながら言った。
「僕らはきっと、完璧な答えなんて見つけられない。でも、探すことだけは自由なんだ」

アリアはその言葉に救われた気がした。
設計された命でも、選ぶ未来は自分のものなのだ。


6. 未来

十年後、アリアは小さな海辺の町でカフェを開いていた。
壁には、ぎこちないけれど温かい絵が飾られている。
子どもたちは彼女をただの“アリアお姉さん”として慕い、誰も彼女が“人工の子”であることを気にしなかった。

ある夜、波の音を聞きながら、アリアはふと空を見上げた。
私は、私のままで生きている――そう思えた瞬間、初めて本当の意味で、自分の命を愛せた。