THE LIFEFUMIO TAKASHIMA
ダイアリー2026.5.26

鈴木敏文さん死去

自分にとってお手本にしたいという経営者はそんなには多くないが、セブンイレブンをつくった鈴木さんは数少ない1人だった。鈴木さんの「小売は心理学」という本があったが、まさに自分も心理合戦だと思っていた。鈴木さんは現場をお客さんの立場から達観して見る姿勢に長けていたと思う。ある時、大井町のイトーヨーカドーのオープン時の朝礼のスピーチを聞かせてもらったことがあった。確か冬だったと思うが、鈴木さんは「なぜ各野菜の仕切りが同じ幅なんだ?今は冬、冬に食べたいのは鍋料理、だったら白菜や大根の売り場を広げておくべきじゃないのか!!」と話していた。とてつもない大会社の社長なのに目線はお客さんの台所にある。そこから見て白菜や大根の売り場の話をする。神髄を見た感じだった。

まただいぶ前にセブン&アイの社内報の中で鈴木さんがいろんな経営者と対談をするコーナーがあり対談させていただいたことがあった。Francfrancの話が中心だったが、何故かその顔つきや雰囲気から「うちの親父に似ているなぁ」と思ったのである。そんなこともあり、資本提携の時もそうだが何故か親しみを感じる方だった。

セブン&アイの経営方針は「変化への対応と基本の徹底」だが、まさにその連続的な行動がコンビニ他社との差につながっていると思う。Francfrancの場合は変化というのがファッションやトレンドというものであり、コンビニに比べたらもっと多方面のこともあるが、基本の徹底は同じだ。繰り返し、繰り返し行うことで磨きをかけてゆく、その徹底ぶりが企業の差になる。資本提携してから、地味だがそういうことを学ばせていただいて良かったと思う。その目線でいろんな業界を見るとまだまだできることはたくさんあるのになぁと思ってしまうことがある。例えば飲食、美味しい料理も大事だが、お客様一人一人にもう一杯飲んでもらう努力をしている店は少ない。1人一杯は大した金額じゃないが、年間にしたら大変な金額になる。また銀座のクラブにも行くが、美味しいチャームを出す、出せばチャームに手が伸びる、そうすればまた飲みたくなる。そういうたった一つ、チャームに努力する店はほとんどない。しかし、BARではそういう店をよく見かける。クラブはシャンパンで稼ぐのも大事だろうが、他の業態で学ぶこともあるのじゃないかと思うのだ。

資本提携は西武やバーニーズやアカチャンホンポ、ロフトなど多くの企業をグループとしていた。Francfrancにも最大49%の株主だったことがあるが、数多くの出資先の中で唯一売却額が出資額の何倍かになった企業であると思う。そのことは鈴木さんにいくばくかのお返しを出来て良かったなと思っている。

鈴木さん亡き後、小売(リテール)を学べる経営者は柳井さんだけかもしれない。しかし柳井さんはあまり多くを語る方ではないし、自分の事業に邁進しておられる。何度かお話しさせてもらったが、鈴木さんのような優しい感じではなく鋭い印象の方だ。そしてある意味、経済界には背を向け、また政治にも批判的で孤高の道を歩んでいる感じがする。それはそれでカッコいいし、No.1のファッション小売業になって欲しいと思う。SNS等で多くの経営者が自前の経営論や、自社の大した業績でもない数字を発信したり、部下を鼓舞するような投稿を見ると、鈴木さんや柳井さんの足元にも及ばないなぁと思ってしまう。昨今の経営者には華やかさや成金さを発信する人が多いが、大きな志の元に徹底して現場を磨き上げる力を持つ人こそ偉大な気がする。鈴木さんには偉大な経営者とは何かを学ばさせてもらった。ありがたい人だった。