THE LIFEFUMIO TAKASHIMA
商売古今東西2025.10.21

魚屋のオッさん

昔から思うのだが、商店街の魚屋のオッさんには商売の原点が詰まっていると思う。

先ず一番大事なのは吊り下げてあるザルだ。今時はもうないのかもしれないが、昔は店の真ん中にザルが吊られていて、その中に現金が入っていた。その中にお客さんからもらったお金を入れ、またその中からお釣りを渡していた。つまりそのザルは当日のキャッシュフローを全て賄う機能を持っているわけだ。例えば朝魚市場に仕入れに行ったとしよう。常連の山本さんの顔、鈴木さんの顔、佐藤さんの顔などを浮かべながら、鰯などの大衆魚から鯛やヒラメなどの高級魚を仕入れる。また刺身や焼き魚や、フライなど惣菜的な商品の材料なども。そして10万円を仕入れたとしよう。

仕入れた魚にどんな値段をつけるかは大事な作業だ。鰯はひと山いくら。鯛やヒラメは丸ごとや、刺身の柵にして。ブリは切り身、柵に。特に何%の粗利を取らなきゃということはない。季節的に売れそうなものは多少高くてもいいし、秋刀魚や鰯などは客寄せパンダ的地位で目玉商品にしてもいい。この作業は店の利益を決める大事な作業だ(プライシング)。トロ箱に氷を敷詰めイキが良いように並べる。これは魚が美味そうに見せるためのディスプレイだ。言い換えればVMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)。傍では他のスタッフが焼き魚や、フライなど惣菜をつくりながら匂いでお客さんを引き寄せる。焼きたて、揚げたてはうまそうだ(匂いによる販促活動)。商店街を通る馴染みのお客さんを見つけてはオッサンは声をかける。家族構成も知っているから「おじいちゃんに鰯の梅煮でもつくってあげなよ、喜ぶよ」とか「息子さんに揚げたてのフライどう?カキフライも。」などぽんぽんとセールストークが出てくる。そうやって夕方のかきいれどきが始まる。ザルの中が10万円になった時、今日の仕入れをカバーした。あとは全て売上は粗利だ。アルバイトの時給はいくら、おっさんや家族の日割り給料はいくらなどどんどん稼がなければいけない。それが1日5万円だとすると15万になったら、あとは全てが利益。オッサンは最低20万円は売らなくてはと思っている。そして20万円に達した時からが腕の見せどころだ。鮮度が商売の肝だ、全て売り切らないといけない。閉店まであと2時間、お客さんに声をかけながら、「2000円だけど1000円でいいよ」「鯛に鰯つけとくよ」などどんどんサービスをしながら売り捌いてゆく。柵もどんどん刺身にして味見をしてもらう。ようやく閉店になったが30万円の売り上げ、今日の利益は15万円だ。それでも残った魚は煮付けや佃煮に出来るものは加工して明日の売り場に並べる、他の残ったものは今日のまかないだ。それでも残ったものは残念だが廃棄する。そんな1日が終わり。オッサンは明日の仕入れを考える。明日は寒そうだからタラや白子など鍋材料を仕入れようとか、家族と相談しながら販売計画を考える。

そんな1日を考えてみるとオッサンは仕入れ、商品陳列、販売、販促、財務、商品計画、在庫管理などを気付かないまま全てを行っている。会社とはそれをどんどん細分化してたくさんの人が専門的にやっているだけだ。幼い頃、自分はよく母の実家の「仕出し兼魚屋」に手伝いに行っていた。おじさんに付いて朝の魚市場から料理の盛り付け、昨日の仕出しの回収、残飯整理、夕方の仕出しの配達などを手伝っていた。イキのいい張りのある声で店頭から声がする。あのピリッとした緊張感の中で商売の感覚が芽生えたのかもしれない。

だからか、魚も好きだが、魚屋が好きだ。ついスーパーの鮮魚売り場や、商店街の魚屋では立ち止まってしまう。どんなにIT化が進もうが、いつまでもそういう活気ある魚屋が残って欲しい。AIには出来ないオッさんならではの感覚が大切なのだ。