日本経済の行末

高市首相になって所信表明演説があったが、強い経済の中身についてはあまり細かい説明はなかった。かつて「デフレ脱却」と言っていた政府だがここに来て「物価対策」という矛盾した対策が当面の課題になっている。もちろん給与が上昇するようにしてくれるのは良いが、これ以上物価を安くする方向にいけばデフレを脱却する事はできない。実は政府は何もコメントしないが、大きな政策の間違いを起こしてきたのである。つまり約30年の間低価格モデルという経済を許容してきた責任がある。
日本の低価格モデルが経済をどの程度抑制したかをここにまとめてみた。
デフレ経済の構造的特徴は1990年代以降、日本の実質GDP成長率は平均0.7%程度にとどまり、賃金水準も横ばいである。
アメリカ・欧州諸国が2~3%台で推移するなか、低価格志向がその要因の一つとなっている。また主な経済的特徴として
1990年代 バブル崩壊・消費冷え込み 価格競争激化、ディスカウント業態台頭
2000年代 ユニクロ・ニトリ・無印など拡大 SPAモデル・輸入依存型サプライチェーン
2010年代 消費税増税・賃金停滞 「安くて良い」が国民的価値観に
2020年代 デジタル流通・グローバル化 SHEINなど超低価格の波
そういう変遷の中で経済的影響の定量分析をしてみると
アパレル市場は1990年の約15兆円から2023年には7.5兆円へ縮小(▲50%)。家具市場も5兆円から3兆円へ減少し、中小家具メーカーは約70%減少。結果として5~7兆円規模の付加価値が失われたと推計される。
その結果、日本は安さの罠(Low-Price Trap)の構造になってしまった
2023年における収入はドルベースで
日本35,000 米国65,000 ドイツ58,000 韓国44,000
アパレル平均単価は
日本70 米国130 ドイツ115 韓国90
GDP成長率(2010-2023)は
日本0.8% 米国2.3% ドイツ1.9% 韓国2.6% である。
つまり低価格競争 → 利益率低下 → 賃金抑制 → 消費縮小 →となり、さらなる低価格化、という悪循環が30年以上続いたのである。
結局国際比較をしてみると日本だけが「安くなった国」になってしまったのだ。
そして低価格構造が奪ったものは1. 給与上昇の抑制 2. 国内製造の空洞化 3. ブランド産業の衰退 4. 消費の質の低下 5.若者の志向変化である。
安さが正義となり、賃上げしても消費が増えにくく、高付加価値への対価を払わない文化が定着。政策では修正困難な「心理的デフレ」に発展している。つまりデフレ文化がすっかり定着してしまったわけである。この30年間、失われたのは価格ではなく「誇り」ではなかろうか。日本は価格を下げる技術では世界一だが、価値を上げる物語を作る力を失ってしまったのだ。低価格の国から価値を誇る国へ̶̶それがデフレからの真の脱却である。
それでは何故、日本政府が“安さの罠”を語れないのかを列挙してみる。
―政治・行政・経済・文化の4層構造分析―
Ⅰ. 政治的理由:支持率と「痛み回避」の政治
政府にとって「物価上昇」「価格転嫁」は生活苦と直結するリスクがある。選挙では『値上げより補助金』が支持されるため、安さを維持する方が政治的に安全。さらに有権者の平均年齢が高く、物価上昇より安定を望む傾向が強い。結果として『成長より安定』が国策化されている。
Ⅱ. 行政的理由:縦割りと守りの官僚制
経産省・財務省・厚労省がそれぞれの論理で動くため、付加価値経済への横断政策が立たない。低価格業態は大量雇用を支えるため、官僚は『安さ』を黙認。戦後の成功モデル(安く・正確に・大量に)が今なお官僚文化の中で理想とされている。
Ⅲ. 経済構造的理由:企業のインセンティブ欠如
企業は株主からはコスト削減を、消費者からは値上げ抑制を求められる。結果として経営者は付加価値投資より短期利益を選びやすい。日本の資本市場は依然として短期指標中心で、ブランドや文化価値を生む投資が評価されにくい。
Ⅳ. 文化心理的理由:「安さ=美徳」という国民意識
倹約・効率を尊ぶ文化が、『削ることに快感を覚える』方向に進化。デザイン・広告・ブランド構築が“無駄”扱いされてきた。消費者として安さを喜ぶ一方、労働者として自らの所得を圧迫するという自己矛盾が定着した。
Ⅴ. 結論:「安さ」は政治的に心地よい幻
政府は『物価高=悪、値下げ=善』という幻想を壊す勇気を持たない。だがそれこそが成長を止めた最大の麻酔薬である。日本が再び成長するには、政治が痛みを伴う真実を語る必要がある。
要するに、安い方が政治的には安全だが、国としては衰退を加速させる。政府が沈黙する間に、国民の意識が“安さの夢”に固定化されてしまったのだ。
だいたいまとめるとそのような事だが、選挙において立候補者も、各関係省庁も、そして今回の首相所信表明でもこのような話は聞かれない。個人当たりのGDP順位も問題にされないが、根本的な日本経済を強くするにはこういう構造をガラッと変えない限り無理なのである。安易なポピュリズムに流されている限り日本経済の復活は残念ながらあり得ないのである。
低価格の国から価値を誇る国へ、それがデフレからの真の脱却である。