歌手 藤井郁弥

藤井郁弥くんとはもう10年以上の付き合いである。友人の紹介で出会ったが、芸能活動というよりはどちらかというとアート寄りの付き合いだ。彼が青山にギャラリーを開いていたときも何度か足を運んだし、代官山で彼の個展があった時もその才能に驚いたりした。もちろん歌手としての才能も素晴らしいものがあり、自分にはない絵や歌で自己表現できるのは羨ましいなぁといつも思う。そんな彼のコンサートに沖縄まで出掛けてきた。いつもは武道館とかだが那覇の会場はこぢんまりとしている。彼は身長はそんなに高くないので普段話しているとそれほどずば抜けたオーラもなく、63歳なのでさすがにおっちゃんぽいところもあるが、これがステージに立つと別人のような光りを放つから凄い。約2時間歌いっぱなしだが、そのエネルギーたるやどこから出てくるのかという感じである。チェッカーズ当時の歌から最新の曲まで歌っていたが「ギザギザハートの子守唄」は昭和59年の歌だ。つまり彼は昭和、平成、令和と43年間に渡り歌い続けているのである。その時代感を思い出しながら聴いていたが、友人でありながらその偉大さに改めて驚いた次第である。おそらくあと7年は歌っているだろうから半世紀歌うことになる。それはもう文化勲章ものだろう。
そんな彼の魅力は何と言っても庶民ぽいところだ。決して偉ぶらず、また派手でもない。そんなに大そうなものを買うわけでもなく、高級車に乗るでもなく、普段から「欲しいものはない」と言っている。趣味は絵を描いたり読書などだが、たまに一緒に飲んだりしても音楽の専門的な話はあまりせずに「どこそこの何がうまい」とか「どこそこの店が面白い」とかの話ばかりだ。以前中田英寿君が、伝統工芸に関わっているのもあり和紙でつくったワインバッグを持ってきたことがあり、さんざん説明した後に「値段は12000円です」と言った瞬間に彼は「そんな高いワインバッグなんか売れねえよ」と断言したのが郁弥っぽいなぁと思った。そういう庶民ぽい感覚がなんか彼の魅力なのである。
久々に彼の歌を聴き、夜の食事や酒を共にし何故か何十年も友人のように感じる人だなぁと思ったし、自分のように獲物を狩るような人生を歩んできた者にはない、じーっと何かを観察し続けるように自分の音楽を内側から創り上げてきた人のように思う。いつもはただ歌を聴いて楽しむだけなのだが、今回は何故か彼の人生や歴史をしみじみ味わえたように思う時間だった。歌手 藤井郁弥、改めて凄い人である。